大豆アレルギーの原因
 大豆アレルギーは、大豆に含まれる貯蔵タンパク質の中のアレルゲンタンパク質が原因で起こります。

 大豆の貯蔵タンパク質は、沈降係数(S)により2S、7S、11Sおよび15Sグロブリンに分類され、また、免疫学的命名法により、グリシニン、α-、β-、γ-コングリシニンに分類されます。これらのうち、7Sグロブリン(β-コングリシニン)と11Sグロブリン(グリシニン)が大豆の貯蔵タンパク質の大部分を占め、これら2成分が大豆タンパク質の機能特性に大きく影響しています。特に、11Sグロブリンは7Sグロブリンに比べて多くの含硫アミノ酸(シスチン、メチオニン)を含有しているため、これら2成分の比率によって貯蔵タンパク質の機能特性や加工特性に差が生じるといわれています。

 7Sグロブリンは、α、α’およびβサブユニットからなり、各サブユニットの欠失系統や生成量の低下した系統が発見あるいは育成されています。一方、11Sグロブリンは酸性ポリペプチド(A)と塩基性ポリペプチド(B)がジスルフィド結合(S−S結合)で重合し、A1aB2、A1bB1b、A2B1a、A5A4B3およびA3B4サブユニットから構成されています。また、これらサブユニット欠失型変異も発見あるいは育成されています。
 なお、7Sグロブリン低下系統では、それを補うように11Sグロブリン生成量が増加し、全体としてのタンパク質含量は低下せず、含硫アミノ酸は高まることから、高含硫アミノ酸および高11Sグロブリン化を図る育種も行われています。本来、大豆タンパク質は、含硫アミノ酸の比率が動物性タンパク質に比べて低いことが欠点とされていることから、高11Sグロブリン化は、この点を改善する狙いも込められているのです。

 これまでに16種類の大豆アレルゲンタンパク質が同定されています(小川 正ら、1992)。無作為抽出したアトピー性皮膚炎患者77人の血清を検査した結果、それら16種類のいずれかの大豆アレルゲンタンパク質に特異的なIgE抗体を保有する患者は約22%(17/77)であり、個々の患者の認識するタンパク質は多様性を示したと報告されています。これらのタンパク質成分の各画分について精査した結果、アトピー性皮膚炎患者の血清中の出現頻度が10%以上の主要アレルゲンは、すべて7Sグロブリン画分に分画されるタンパク質に属することが明らかになりました。小川 正ら(1992)は、出現頻度が65%で分子量約30kDa(ダルトン:分子量を表す単位)の最も主要なアレルゲン成分をアレルゲン命名法に従いGly m Bd 30Kと名付けました。このほか、Gly m Bd 60K(7Sグロブリンα-サブユニット)、Gly m Bd 28Kも主要なアレルゲンであることを明らかにしました。一方、アレルゲン性が最も強いと疑われていたKunitz soybean trypsin inhibitor (KSTI)はアトピー性皮膚炎患者血清によってほとんど認識されませんでした。また、大豆の主要貯蔵タンパク質成分である11Sグロブリン、すなわちグリシニンを認識するIgE抗体を保有する患者はほとんど認められず、それは少なくとも大豆陽性のアトピー性皮膚炎患者に対しては最もアレルゲン性の低い大豆タンパク質成分であることが示唆されました。

 以上のように、これまでに同定された16種類の大豆アレルゲンタンパク質のうち、出現頻度の高い主要アレルゲンは、Gly m Bd 30K、Gly m Bd 60K(7Sグロブリンα-サブユニット)およびGly m Bd 28Kであるとみられます。

※引用文献:小川 正・辻 英明・板東紀子(1992)大豆たん白質の低アレルゲン化に関する研究.大豆たん白質栄養研究会会誌 Vol.13:86−91