日本型食生活
日本の伝統的食生活パターンは、米(ごはん)を中心として、大豆、野菜、魚などの国内で生産、捕獲される素材を、しょうゆ、みそ、だしなどの調理料によって味付けした副食を組み合わせたものが典型的でした。しかし、1970年代までには、畜産物や油脂類の消費も増え、これまでの内容に畜産物や果実などがバランスよく加わった、健康的で豊かな食生活が実現しました。

 1980年に出された農政審議会の答申「80年代の農政の基本方向」(農産物の需要と生産の長期見通し、健康的で豊かな食生活の保障と生産性の高い農業の実現をめざして)の中で、欧米諸国と比較して優れたバランスを持つ日本型食生活の優れた点が評価され、栄養的な観点はもとより、総合的な食料自給力維持の観点からも、日本型食生活を定着させる努力が必要とする提言が行われました。この答申を受けて、1983年3月に「食生活懇談会」(座長:小倉武一(財)農政研究センター)から「私達の望ましい食生活−日本型食生活のあり方を求めて」と題する8項目が提言され、いわゆる日本型食生活の指針が作成されました。
    (1)総熱量の摂り過ぎを避け、適正な体重の維持に務めること
    (2)多様な食物をバランスよく食べること
    (3)お米の基本食料としての役割とその意味を認識すること
    (4)牛乳の摂取に心がけること
    (5)脂肪、特に動物性脂肪の摂り過ぎに注意すること
    (6)塩や砂糖の摂り過ぎには注意すること
    (7)緑黄色野菜や海草の摂取に心がけること
    (8)朝食をしっかりとること
また、1990年11月には「日本型食生活新指針検討委員会」(座長:福場博保昭和女子大学教授)から、7項目からなる「新たな食文化の形成に向けて−’90年代の食卓への提案−」が出されました。
    (1)主食としてのごはんを中心に多様な副食(主菜、副菜など)を組み合わせよう。
    (2)ライフスタイルに対応した生活リズムや食生活スタイルを確立しよう。
    (3)多様な形で食を楽しみ、生活の豊かさを広げよう。
    (4)幼児期には−多様な素材と多様な味に慣れさせ、豊かな食歴をつくりあげよう。
    (5)青少年期には−生活リズムにあった食生活を確立しよう。
    (6)壮年期には−ゆとりとうるおいのある食卓づくりに心がけよう。
    (7)高齢期には−食を通じて、世代を超えたコミュニケーションの輪を広げよう。

 日本政府が「日本型食生活」を推奨してきたのにはそれなりの根拠があるのです。すなわち、フランスの農学者で「百億人を養えるか」の著者であるジョセフ・クラッツマンによって、「1970年代の世界人口のうち、10億人は食べ過ぎで、40億人は栄養不足であり、満足できる食料消費をしているのは日本人だけである」と、「日本型食生活」による1970年代の日本人の栄養(PFC)バランスが絶賛されているのです。

 しかし、1980年代以降、食生活の欧米化が進行し、栄養バランスが崩れ始めました。近年では、脂質の過剰摂取など栄養バランスの偏りや男性の肥満・若い女性のやせ、子どもの朝食の欠食率の増加、一人で食事をするいわゆる孤食などの問題が起こっています。また、食べ残しや食品の廃棄などが家庭や食品産業で生じており、資源の浪費や環境に負荷を与えるという問題が起こっています。さらに、畜産物、油脂類の消費が増加するなどの食生活の変化は、国内で自給できる農産物の消費割合の減少と国土条件の制約から国内生産では十分にまかなうことのできない飼料穀物や輸入油糧種子の輸入の増加につながり、長期的な食料自給率の低下の大きな要因となっています。ちなみに、カロリーベースの食料自給率は、1960年には79%と高かったのですが、1980年には60%に低下し、1996年以降は10年連続で40%、2006年にはついに39%に低下するなど、非常に低い水準で推移しています。

 こうした状況の中で「食料・農業・農村基本法」が策定され、第16条第2項で“国は、食料消費の改善及び農業資源の有効利用に資するため、健全な食生活に関する指針の策定、食料の消費に関する知識の普及及び情報の提供その他必要な施策を講ずるものとする”と書かれたことを受けて、農林水産省では「食生活指針検討委員会」を開催し検討を進めていました。同様の検討が厚生省でもなされていたこと、さらには次世代を担う子どもに対する教育(食育)が重要ということで、農水省、厚生省、文部省が共同して新たな食生活指針を検討し、2000年3月24日「食生活指針推進について」が閣議決定されました。