低アレルゲン大豆品種「ゆめみのり」
 「ゆめみのり」は、種子貯蔵タンパク質中の11Sグロブリン含量の向上を目標として、原品種「刈系434号」の気乾種子に200Gyのガンマ線を照射し、選抜・固定を図ったものです。なお、原品種「刈系434号」は、種子貯蔵タンパク質中の7Sグロブリンのα’サブユニットが欠失し、αおよびβサブユニットの生成量が半減した系統ですが、「ゆめみのり」はさらに、原品種「刈系434号」の7Sグロブリンαサブユニットを欠失させたものです。したがって、「ゆめみのり」は、7Sグロブリンαおよびα’サブユニット同時欠失系統ということになります。

 ガンマ線照射気乾種子9,334粒中から、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)により、同時欠失種子1粒を見出すことに成功し、後代集団より選抜・固定を図ったものです。2000年に、基本系統の7個体について、SDS−PAGEおよびイムノブロット法により、タンパク質組成およびアレルゲンタンパク質について分析し、すべての種子においてαおよびα’サブユニットならびにGly m Bd 28Kを欠失していることが確認されました。

 このように「ゆめみのり」は、大豆たんぱく質の機能特性を向上させる目的で、放射線を用いた突然変異育種法により作出した高11Sグロブリンダイズですが、研究を進める過程で、低アレルゲン性をもつことが明らかになり、低アレルゲンダイズとしての品種育成試験を進めた結果、低または脱アレルゲン食品原料として実用化の目途がたち、2001年10月に「だいず農林117号」として命名登録、2001年8月28日に品種登録出願(出願番号:第13782号)、2004年11月8日に品種登録(品種登録番号:第12280号)されました。なお、「ゆめみのり」は、低アレルゲン大豆品種としては世界で初めての品種とみられています。

 上記のように、「ゆめみのり」は、大豆の主要アレルゲンとして同定されているGly m Bd 30K、Gly m Bd 60K(7Sグロブリンα-サブユニット)、Gly m Bd 28Kのうち、Gly m Bd 60K(7Sグロブリンα-サブユニット)およびGly m Bd 28Kを欠失しています。そのため、「ゆめみのり」は、それ以外の品種(以後、普通ダイズと記述)に比べて低アレルゲン化した品種であるといえます。

 また、普通ダイズではGly m Bd 30Kは、7Sグロブリンαおよびα’サブユニットとジスルフィド結合(S−S結合)しているため、加工法により低アレルゲン化するためには、亜硫酸ナトリウム(NaSO)等の還元剤によってこの結合を切断する操作が必要であり、しかも、普通ダイズから得られる分離タンパク質には、上記のように、Gly m Bd 28KとGly m Bd 60K(7Sグロブリンα-サブユニット)が含まれ、Gly m Bd 30Kも一部残存しています。一方、「ゆめみのり」では、唯一含まれるGly m Bd 30Kの結合相手である7Sグロブリンαおよびα’サブユニットが欠失しているため、Gly m Bd 30Kは遊離状態になっていると考えられます。そのため、還元剤を使用せずに製造した「ゆめみのり」から得られる分離タンパク質には、主要アレルゲンとしてごく微量のGly m Bd 30Kだけが残るのみであるという実験結果が得られています。例えば、普通ダイズでは還元剤を使用しても豆乳量3.0μlのレーンに明瞭なGly m Bd 30Kのバンドが認められました。一方、「ゆめみのり」では、還元剤を使用しなくても、3.0μlのレーンでは、Gly m Bd 30Kのバンドは痕跡程度にしか検出されず、その10倍量である30μlのレーンではっきりと認められるようになりました。このように、Gly m Bd 30Kの除去率は、普通ダイズの還元剤利用区で97.4%であったのに対し、「ゆめみのり」の還元剤未利用区では99.8%と極めて高く、簡略で高純度の低アレルゲン化分離タンパク質製造法に「ゆめみのり」は有用であると考えられました。

※引用文献:高橋浩司・島田信二・島田尚典・高田吉丈・境 哲文・河野雄飛・故足立大山 ・田淵公清・菊池彰夫・湯本節三・中村茂樹・伊藤美環子・番場宏治・岡部 昭典(2004) 低アレルゲン・高11Sグロブリンダイズ「ゆめみのり」の育成. 東北農研研報 102:23−39.