温室効果ガスと農業
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」のIPCC第5次報告書によれば、気候システムに温暖化が起こっていることが断定され、その原因は、人為起源の温室効果ガスの増加であるとほぼ断定されています。また、地球温暖化は加速的に進行しており、農林水産業にも深刻な影響を及ぼすと予測されています。
 大気中の主な温室効果ガスとして二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、フロン類(CFCs)、一酸化二窒素(亜酸化窒素:N2O)などがあげられます。

 二酸化炭素(CO2):二酸化炭素は地球温暖化に及ぼす影響がもっとも大きな温室効果ガスです。人間活動に伴う化石燃料の消費とセメント生産および森林破壊などの土地利用の変化が、大気中の二酸化炭素濃度を増加させつつあります。工業化時代以前からの大気中の二酸化炭素濃度の増加の75%以上が 化石燃料の消費やセメント生産によるものです。残りの増加は、農法の変化による寄与を含めて、森林破壊を主とした土地利用変化(と関連するバイオマス燃焼)によるものです。これらの増加はすべて人間の活動に起因します。
 メタン(CH4):メタンは二酸化炭素に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きな温室効果ガスであり、湿地や水田から、あるいは家畜および天然ガスの生産やバイオマス燃焼など、その放出源は多岐にわたります。メタンは、主に大気中のOHラジカル(非常に反応性が高く不安定な水酸分子)と反応 し、消失します。
 一酸化二窒素(亜酸化窒素:N2O):一酸化二窒素は大きな温室効果を持つ気体であり、大気中の寿命(大気中の総量を、大気中で年間に分解される量で割った値)がおよそ120年と長いものです。海洋や土壌から、あるいは窒素肥料の使用や工業活動に伴って放出され、成層圏で主に太陽紫外線により分解されて消滅します。
 ハロカーボン類:ハロカーボン類は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を含んだ炭素化合物の総称であり、その多くは本来自然界には存在しない人工物質です。これらは直接温室効果ガスとして働くほか、成層圏オゾンを破壊し、間接的には寒冷化をもたらす気体としての働きもあります。ハロカーボン類の大気中濃度は二酸化炭素に比べ100万分の1程度ですが、単位質量あたりの温室効果が数千倍と大きいため、わずかな増加でも地球温暖化への影響は大きくなっています。また、大気中の寿命が比較的長いことから、その影響は長期間におよびます。
 一酸化炭素:一酸化炭素は、化石燃料やバイオマスの不完全燃焼およびメタン等炭化水素類の酸化過程が主な放出源であり、大気中のOH ラジカルとの反応により消失します。一酸化炭素は地球表面からの赤外放射をほとんど吸収しないため、温室効果ガスではありません。しかし、地上から高度約 10kmまでの対流圏のオゾンの前駆物質であるとともに、OHラジカルとの反応を通して他の温室効果ガス濃度に影響を与えます。
 地上オゾン(O3):対流圏(地上〜高度約10km)のオゾンは反応性が高く、大気中でOHラジカルを生成させ、これがメタン等と反応するため、これら温室効果ガスの大気中濃度に影響を与えるとともに、それ自身が温室効果ガスでもあります。対流圏オゾンは窒素酸化物(NOx)の存在下で一酸化 炭素や炭化水素類の光化学反応で生成され、水素酸化物(HOx:HO2およびOH)との反応によって消失 します。また、成層圏から対流圏に輸送され、地表付近では地面に触れて消失します。その濃度は地域、高度、時期により大きく異なります。環境基準は1時間平均値で0.06ppm(60ppb)以下とされており、これを超えると光化学スモッグとして人間の呼吸器や皮膚に被害を与えることがあります。
 ※気象庁:「温室効果ガスに関する基礎知識」より引用
 フロン類を除いて、いずれも1760年代にイギリスで始まった第一次産業革命、さらには1950年代にアメリカで始まった第二次産業革命以降に肥大した人間活動によって大気中の濃度が上昇し、温暖化を引き起こしているといわれています。

 地球は太陽の放射エネルギーを吸収することで暖まり、その温度から決まる赤外線放射エネルギーを放出して、エネルギー的なバランスを保っています。大気がない場合、地球の温度は−18℃になることが示されています。しかし、大気に赤外線放射吸収物質(温室効果ガス)がある場合、「太陽から届く日射が大気を素通りして地表面で吸収され、加熱された地表面から赤外線の形で熱が放射され、温室効果ガスがこの熱を吸収し、その一部を再び下向きに放射し地表面や下層大気を加熱する」という仕組みにより生物の生存に適した気温に保たれています。例えば、現在の大気中CO2濃度(355ppmv)下の地球の年平均気温の全球平均値は15℃であることが示されています。すなわち、濃密な大気に包まれている地球の地表近くの温度は、大気がない裸の地球の温度より33℃も高くなり、普通の生物の生存適域(0〜40℃)にあることが分かります。この33℃の昇温は、現在の地球大気の温室効果を表しているのです。しかし、近年は、肥大する人間活動によって、地球大気中の二酸化炭素、メタン、フロン類、一酸化二窒素などの濃度が上昇し、大気の温室効果が人為的に強まることによる悪影響が懸念されているのです。その最も顕著な影響が、地球温暖化です。

 一方、水田にすき込まれた稲ワラが水田湛水という嫌気的条件でメタン生成菌が作用することによってメタンを発生したり、肥料として与えた肥料などが、硝化細菌による硝化や、脱窒細菌による脱窒の過程で副産物として亜酸化窒素を生成することがわかっています(農業環境技術研究所)。また、反芻家畜がゲップをするときにメタンを発生させることもわかってきています(畜産試験場)。

 このような中、農林水産省は2007年に(2008年一部改定)、“地球温暖化対策を「負担」と捉えるのではなく、新たな経済成長のチャンスと捉え、低炭素社会の実現に向け、農山漁村地域に賦存する資源、エネルギーの活用や、農林水産業関係者・国民の排出削減のインセンティブとなる「見える化」等、農林水産分野から低炭素社会の実現をリードするような施策を盛り込んだ”(「はじめに」より)「農林水産省地球温暖化対策総合戦略」を策定しています。