土壌の健全性(健康な土壌)とは? |
まず、「土壌」とは何か、から考えていきます。厳密に言うと、「土」と「土壌」は同じではありません。岩石が長い時間をかけて雨や風、気温の変化といった風化作用を受けるとボロボロになり細かくなります。岩石が崩れてできた砂は、どんなに細かくても、純粋に鉱物だけで構成されています。これが「土」です。そこにコケ類、地衣類が棲みつきます。さらに落ち葉や枯れ枝、動物の死体などの有機物が加わり、微生物の働きでできた腐植などが少しずつ無機鉱物に混じり合うことで初めて「土壌」ができます。1cmの土壌ができるには、100〜数百年という時間がかかるといわれています。 したがって土壌は、鉱物等の無機物、腐植等の有機物、水、空気、そこに棲息する生物から成り立っています。このうち、無機物、有機物および生物は「固相」、土壌に含まれる水は「液相」、空気は「気相」と呼ばれます(「土壌三相」といいます)。土壌の種類や深さにもよりますが、土壌の約半分は水や空気が占めています(固相50%、液相20〜30%、気相20〜30%)。土壌水には、各種の元素や有機物が溶け込んでおり、植物や土壌生物に養分や水を供給する役割を果たしています。固相には様々な大きさの鉱物が含まれており、粗い方から順に、礫(gravel)、砂(sand)、シルト(silt)、粘土(clay)に分類されます。 砂、シルト、粘土の相対的な割合によって土性(土壌の質感)とその区分が決まります。土性は、その土壌固有の性質であり、土壌の管理のしかたによってはほとんど変化しません。土性は、土壌がどう機能しているかを定量化する上で重要な基本特性の一つです。特に粘土の量と種類は、栄養素の保持と交換、および有機物の貯蔵に関する土壌の能力に大きく影響します。粘土は非常に小さな、層状で板状の粒子であるため、表面積が広くなっています。ほとんどの粘土の表面は負(−)に帯電しているため、正(+)に帯電した栄養イオンは静電的に“くっつく”ことができます。土壌粒子が正に帯電した栄養イオンを保持し、それを土壌水または土壌溶液と交換する能力は、土壌の陽イオン交換容量(cation exchange capacity、CEC)と呼ばれます。 よく「土は生きている」と言われるように、土壌は生命で満ちあふれており、地球上でもっとも生物多様性に富んでいます。その顔ぶれは、細菌・カビなどの微生物から、センチュウ・トビムシ・ササラダニなどの小型の土壌動物、ミミズやヤスデといった大型の土壌動物までさまざまです。土壌中で多様な生物が棲息できている背景として、様々な分解段階の有機物が蓄積されており、食物となる有機物の形態が多様であること、土壌を構成する微細な粒子が土壌団粒と呼ばれる種々の大きさの集合体を形成していること等があげられます。安定した土壌団粒は、適切な空気交換と水の浸透、貯蔵、排水を可能にする良好な土壌構造、つまり「耕作性」を維持するために重要です。 土壌は多面的な機能を果たしています。作物の生産と環境の質に関連する重要な土壌機能としては、@栄養を保持し循環させ、植物の成長をサポートする、A炭素を循環する、B浸透を可能にし、水の貯蔵と濾過を促進する、C害虫、病気、雑草を抑制する、D有害化学物質を解毒する、E食品、飼料、繊維、燃料の生産を支える、があります(コーネルCASHより)。土壌の健全性とは、「植物、動物、人間を支える、元気で生き生きとした生態系として機能する土壌の継続的な能力」という定義が一般的です。したがって、健康な土壌の特徴としては、@良好な土壌耕作性、A十分な深さ、B良好な保水性と良好な排水性、C十分な、ただし過剰ではない栄養素の供給、D植物病原体と害虫の個体数が少ない、E有益な生物の大きな集団の存在、F雑草の圧力が低い、G作物に害を及ぼす可能性のある化学物質や毒素を含まない、H土壌劣化に対する耐性、I不利な状況が発生した場合の回復力、などがあると考えられています(コーネルCASHより) 長期にわたって持続可能な農業生産を続けていくためには、健全な土壌を維持し、再生することが極めて重要であるという認識が、欧米を中心に一般化しつつあり、土壌の健全性の評価と管理に関する研究と実践が活発に行われるようになっています。 |